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イヌゴエ
監督:横井健司
出演:山本浩司、村上淳、馬渕英里何ほか
配給:バイオタイド
2005年 日本映画
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いつもニコニコ笑っていたい。ポジティブに物事に取り組めば、おのずとうまくいく。
そんなことは百も承知だ。自分はそれをやろうとしてる、でも周りがそれを許さないんだ。周りが変わらない限り、 自分が変わることなんてできやしない。
そんなふうに思っている人、今の時代に多いと思う。かく言う私もそんな節がある。
じゃあ、自分の殻を破って周りを変えるためにはどうすればいいの!?
しゃべる犬とソリッド・シチュエーション
主人公のサラリーマン・芹澤直喜は、優れた嗅覚を持ち、仕事もそれを活かして”臭気判定士”として働いている。ある日突然、父から犬(フレンチ・ブルドッグ)を預かることになった直喜は大パニック! 人一倍臭いに敏感なのに、犬の臭いに耐えられるわけないじゃん! 特殊能力を持つ反面、人付き合いが苦手で彼女にも愛想をつかされた直喜は、犬に対しても心を開けない。そんなとき、驚愕の事実が! 犬が…、犬がしゃべった!!
「寒いのう」「腹減ったのう」。フレンチ・ブルドッグの良い意味での表情の乏しさに、とぼけた関西弁が完璧にマッチして、慣れるまでは犬の声だけで笑えます。爆笑できます。
可愛そうなのは直喜だ。臭いもだめ、犬も好きじゃない、しかもしゃべる犬なんて見たことないし! 本人では理解できない状況に登場人物をぶち込んでしまう昨今流行の”ソリッド・シチュエーション”(『SAW』など)で、観るものを激しく誘引する演出に唸る
直截表現と内面的学習意欲
犬のしゃべりに慣れてくると、気になるのは犬特有(!?) の直截的な意思表示だ。「交尾したいのう」「ああ、したいのう」「ほんま眠いのう」「もう辛抱たまらん」など、人間社会でそのまま口にしたら、すぐに落伍者の烙印を押し付けられてしまうような言葉ばかりが犬(名前はペス)の口から速射砲のごとく飛び出してくる。
そんなペスと接するうちに、直喜の心にも変化が現れる。「思ったことはすぐに相手に伝えたほうがいいんじゃないか?」
直喜、正解だ。君が正しい。では「どうすれば相手に思ったことを伝えられる?」。自発的に自分と向き合うようになった直喜の心に”内発的学習意欲”が涵養されたのだ。簡単に言えば、自分の殻を破る準備が整ったわけだ。
あなた周りの人で、殻を破ろうとしない人いませんか? 積極的に自分の人生と向き合っていない輩たち。そんな人たちを変えさせるヒントをこの映画は伝えている。犬がしゃべるくらい衝撃的なエピソードがあれば、人の心は動かせるってこと! ま、しゃべる犬を連れてこられる人はいないわけで、これって「人のモチベーションは外からでは動かせない」ってことの皮肉なのかも。
物事の捉え方と伝え方
ペスを直喜に預けた父親が、直喜に語りかけるシーンがある。「お前はいつもマイナス思考や。俺はバツイチちゃうで、マル2やで! 2回結婚してんのやからな」。仕方ないな親父は、と直喜は苦笑する。心を開こうとした人間に、言葉は打ち響くのだ。この映画とは関係ないけど、土砂降りの屋外ロック・フェスティバルでヴォーカルが叫んだ言葉と重なる。「雨が降ってるなら、この後に虹が見えるかもしれないぜ!」。
直喜が出会った初老の男は、直喜にこう言う、「相手の瞳を見て、相手の気持ちを思って話すことだ」。直喜が周りにそうしてみると、世界は変わっていく。相手を思えば、自然と笑える。ニコニコ仕事をする人と、また仕事がしたいと思う。周りの責任じゃないと気づく、問題は我にあり、と。
そして直喜は、一度心が離れかけたペスの瞳に語りかける。そのクライマックスのシーンは、美しい。
オフィシャルのプロダクション・ノートによると、現在日本には1300万頭の犬がいるらしい(実際の登録頭数は640万頭)。これは日本の子供の人口を上回る数なんだそうだ。そして、そんなに身近な動物である犬との共生を描きたくて、この映画を撮ったとスタッフは続けている。
その試みは成功している。しかし映画はそこには止まってはいない。一人の人間が、犬と、社会と格闘することで自分を見つめることを学び、自分にとって大切なものを獲得する様を、コメディ・タッチで描ききった大人のビルドゥングス・ロマン(成長物語)だと思うのだ。 つまり、他人にその人の殻を破ってもらうためには、自分自身の成長が不可欠なんだ、とペスは私たちに強く訴えかけているんだ。 |
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